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旭川地方裁判所 昭和39年(わ)223号 判決

被告人 相良和雄

昭一六・五・二四生 無職

主文

被告人を死刑に処する。

押収してある被用弾頭三個(証第二、八号)、空薬莢四個(証第三、七、一二号)、拳銃弾の弾頭二個(証第一九号)、拳銃弾の薬莢二個(証第二〇号)ローヤル拳銃一丁(証第二五号)、実包八発(証第二六、二九号)、小型拳銃一丁(証第二七号)、弾倉一個(証第二八号)は、いずれもこれを没収する。

理由

(被告人の経歴等)

被告人は、昭和一六年五月二四日旭川市三条通二一丁目左五号において、当時大工をしていた相良留之助、同スエの次男として出生したが、父留之助は被告人が二歳の時応召したまま、三歳のころニユーギニア方面で戦死したので、母スエは、昭和二五年五月、当時小学校三年生になつたばかりの被告人を連れ子にして前川吉彦と再婚したため、同市栄町西一丁目に転居し、昭和二九年同市立青雲小学校を卒業した。次いで、同市立聖園中学校に入学し、三年生の時窃盗罪を犯して検挙されたが、同三二年三月無事同校を卒業した(右窃盗罪については同年六月一四日旭川家庭裁判所において不処分決定となつた。)。卒業後は、同市五条通八丁目丸三青果株式会社の店員となつたが、間もなく、同社紋別支店に配置換えになり、同支店に勤務中の同年八月一二日、実母スエも癌で死亡した。引き続き右支店に勤務中の昭和三四年一月ころ、同支店のために集金した金を持ち逃げして上京したため、しぜん同支店をやめるようになるとともに、同年七月一四日、旭川家庭裁判所において業務上横領罪として保護観察処分に付せられた。その後は、旭川市内で土建業滝組の土工をしたり、日本通運株式会社近文営業所の人夫などをして働いていたが、同年一〇月二五日ころ酒に酔つて交通事故に遭い、右足を切断し、翌三五年六月ころ義足をはめるようになり、それでも一時は洋服店で洋裁見習として働いたが、性に合わないとして三か月位でやめてからは、一定の職にもつかず、右前川のもとで徒食しているうち、詐欺、窃盗を犯し、同年一〇月三日旭川家庭裁判所において特別少年院送致決定を受けて千歳少年院に入院し、翌三六年九月二六日同少年院を退院したが、再び窃盗を犯し、同年一一月二五日旭川簡易裁判所において懲役一〇月に処せられて函館少年刑務所で服役し、昭和三七年九月一二日に仮出獄したが、同刑務所から帰宅の途中またも自動車二台等を窃取し、同年一〇月四日岩内簡易裁判所において懲役一年に処せられて札幌刑務所で服役し、昭和三八年一〇月三日刑期満了で出所したが、同刑務所で知り合つた三上勝雄を頼つて函館市に行き、水産物仲買人をしている同人方で運転手などをして働いていた。

しかし、前記三上方においては、毎月定まつた給料が貰えず、月平均三千円位の小遣銭を支給されるに過ぎなかつたところから、昭和三九年六月ころに至り、内々、同人方で働くのをやめようと考えていたやさき、右三上方の使用人中山健司からローヤル拳銃一丁および小型拳銃(自動装填式)一丁(いずれも実包が七発装填されているもの。)を見せられるに及び、拳銃があれば、金に窮した場合に人を脅しても金がとれると考え、同月九日、ひそかにこれを持ち出し、翌一〇日旭川市に来た。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三九年六月一二日、旭川市内を遊び歩くうち、たまたま中学時代の同級生で、旭川市永山町八丁目石狩鉱業株式会社に勤めている高野国夫に会い、同人の紹介で右会社の自動車運転手として働くことになり、翌一三日は砂利運搬の仕事に従事したものの、前記拳銃を所持しているところから、それで人を脅かせば容易に大金を入手できると思うにつけ、真面目に働く気がせず、その日一日で右会社を辞め、漫然、旭川市内の旅館に泊りながら同市内で遊んでいるうち、いよいよ所持金も残り少なくなり、同月一四日ころ、ついに、右拳銃を使用して金員を入手すべく、その実行に着手することを企てるに至つた。

かくて、被告人は、

第一、一 昭和三九年六月一五日午後一〇時二〇分ころ、かねて店内の様子を知つていた同市西条通一九丁目池林洋品店に押し入ることを考えながら同市四条通一〇丁目附近を歩行中、折から金星ハイヤー株式会社運転手福永正昭(当時二三年)の運転するタクシー(旭五あ二三四三号)が走行して来るのを認め、これを停車させて後部座席に乗車し、前記池林洋品店に向け同一一丁目方向に進行中、同車内において、右池林洋品店をおそうよりは同運転手を拳銃で脅迫して所持金を強取しようと考え、そのまま同市宮前東鉄道公舎附近路上まで運転させたうえ同所で停車させるや、同車内後部座席より所携の前記小型拳銃(証第二七号、実包七発が装填されたもの。)の安全弁を外ずしてこれを右手に構え、同人の後方からこれを突き付け、「これ何だか見えるか。」と申し向けたところ、玩具とでも思つたのか、意外にも同人が「なんだそんなもの。」等と言つて相手にしなかつたため、とつさに同人を射殺して金員を強取しようと決意し、同人の左後頭部を目懸け、その約二、三〇糎後方から右拳銃を発射して命中させ、よつて即時同所において後頭葉底部軟脳膜貫通銃創に基づく小脳、延髄、大脳の挫傷および蜘脳膜下出血によつて同人を死亡させて殺害したうえ、同人所持にかかる現金三千円を強取し、

二 前記一の犯行後、直ちに前記福永正昭の死体を前記タクシーに乗せたまま、これを運転して同所から北海道上川郡神楽岡公園堤防用地附近路上まで運び、同所道路脇草むら内にその死体を引きずり込んで同所に放置し、もつてこれを遺棄し、

第二  前記犯行の翌日、早々に旭川市内から逃走しようと考えたが、同日の新聞朝刊にはいまだその犯行は登載されてないのを知り、暫く逃走を思い止まつたものの、前記犯行により強取した金員は宿泊、売春婦との遊興費等に使用して残り少なくなつたところから、さらに金品を入手したうえ逃走しようと考え、再び前記池林洋品店に押し入ること等を考えながら同市内を徘徊したのち、同月一七日午前〇時過ころ、同市一条通五丁目穴口ふとん店前路上にさしかかつたさい、旭川交通株式会社運転手相沢幸四郎(当時三〇年)の運転するタクシー(旭五あ二二五一号)が空車で進行して来るのを認めるや、前記第一と同様に右運転手を射殺して所持金を強取しようと決意し、同自動車を停めてその後部座席に乗車し、同市曙三条七丁目西村花子方前路上まで運転させ、同所において停車を命じたうえ、同車内において、ひそかに前記小型拳銃(証第二七号、実包五発が装填されたもの。)の安全弁を外ずして右手に構え、右後部座席から料金を尋ねたのに応じて同運転手が前向きのまま料金メータを指示したさい、同人の後頭部をねらい、その約三〇糎後方から右拳銃を発射して命中させ、よつて即時同所において頭蓋骨貫通銃創に基づく大脳挫滅および蜘脳膜下出血により同人を死亡させて殺害したが、右自動車が急に後退し始めたので、身の危険を感じて車外に跳び出し、犯行の発覚を恐れてその場から逃走したため、金員強取の目的を遂げず、

第三  前記第二の犯行の後は、捜査の目を免れるべく、附近山中に身をひそめながらも、同犯行のさいに金員強取の目的を遂げなかつたところから、ますます金員に窮し、さらに拳銃による金員強取を企てながら徘徊中、翌一八日午前一〇時過ころ同市神居町富沢一五五番地雑貨商畠山松次郎方店舗に立ち寄り、パン等を飲食しながら休憩したさい、たまたま同人の妻ミサ(当時六二年)が一人で店番をして居り、店内に手提金庫があるのを目にするや、同女を拳銃で脅迫して金員を強取しようと考えたが、折悪しく来客があつたので、ビール等を追加注文して飲食しながら暫くその機会を窺ううち、同日午前一一時一〇分ころ、漸く同店には右畠山ミサ一人になるや、同女に対し右パン代等の勘定を求め、同女がそろばんを弾いている側に前記小型拳銃(証第二七号、実包三発が装填されたもの。)の安全弁を外ずしながらひそかに歩み寄り、同所において、やにわに左手で同女の右肩を背後から掴んでその体を被告人の方に向かせ、右手に持つた前記拳銃を同女の胸元に突き付け、「静かにしろ。」と申し向けたところ、同女が驚きの余り被告人に抱きつくような恰好になつたので、抵抗されてはこと面倒と考え、とつさに同女を殺害して金員を強取しようと決意し、同女の顔面を目懸けて右拳銃を発射して命中させ、その反抗を抑圧したうえ同店舗奥にあつた手提金庫内より、右畠山松次郎所有の現金三千円を強取したが、同女がなおも声を立てて追いすがるのを見て、同店前道路上同女と約七米離れた場所から同女を目懸けて右拳銃を発射して顔面に命中させ、よつて右強取の目的を果したが、そのさい、同女に対し加療三月を要する頭蓋骨貫通銃創および脳射創の傷害を負わせたのみで殺害の目的を遂げず、

第四  法定の除外事由がないのに、

一イ  同月一五日午後一〇時二〇分ころ同市宮前東鉄道公舎附近路上において、同月一七日午前〇時過ころ同市曙三条七丁目西村花子方前路上においておよび同月一八日午前一一時一〇分ころ同市神居町富沢一五五番地畠山松次郎方店舗において、引き続き、前記小型拳銃一丁(証第二七号)を所持し、

ロ  同月一四日同市四条通一五丁目喫茶店「ロンドン」前附近路上においてローヤル拳銃一丁(証第二五号)を所持し、

二イ  同月一五日午後一〇時二〇分ころ同市宮前東鉄道公舎附近路上において実包七発を、同月一七日午前〇時過ころ同市曙三条七丁目西村花子方前路上において右実包七発のうち五発を、同月一八日午前一一時一〇分ころ同市神居町富沢一五五番地畠山松次郎方店舗において右実包五発のうち三発を引き続き所持し、

ロ  同月一四日同市四条通一五丁目喫茶店「ロンドン」前附近路上において実包七発を所持した

ものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の一、第二の各所為はいずれも刑法二四〇条後段に、判示第一の二の所為は同法一九〇条に、判示第三の所為は同法二四三条二四〇条後段に、判示第四の一の各拳銃の不法所持の点はそれぞれ銃砲刀剣類等所持取締法三条一項に違反して同法三一条一号に、判示第四の二の各実包の不法所持の点はそれぞれ火薬類取締法二一条に違反して同法五九条二号に該当するが、右第四の一のイと二のイおよび一のロと二のロの各所為はいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、各刑法五四条一項前段一〇条により各重い銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪の刑で処断することとし、以上は同法四五条前段の併合罪である。

そこで被告人に科すべき刑の選択、量定に関し、犯情の重い判示第一ないし第三の罪についてその情状を検討する。

一  本件犯行は、判示の如く、被害者にはなんら落度がないのに、若く希望に充ち満ちた二人の勤労青年の尊い生命を奪い、さらに働きながら幸福な老後を楽しんでいる一人の女性に対し瀕死の重傷を負わせ、ひとり被害者に止まらず、その家族に対しても、物心両面において重大な結果をもたらした兇悪な犯行である。

二  その態様についてみても、第一に、各犯行とも、それじたい危険極まりない兇器である拳銃を用いて犯された点において、第二に、それが殆んど連日、連続的に犯されたものであることにおいて、第三に、それは、たまたま被告人の前にあらわれたが故に犯された、いわば不特定の者を対象として企図されたものである点において危険極まりないものといえる。それ故にこそ、判示福永運転手または相沢運転手ならずとも、たまたま同所を通り合わせたならば、判示同様の被害を蒙る危険があつたものとして自動車の運転手たちを恐怖におののかせ、判示第三の如く、白昼、平穏な店頭において老婆を襲うに至つては、日夜を問わず、いつ、いかなる人がその危害に遭遇するやも測り知れずとして一般市民をいよいよ恐怖の底につき落した。かくては、被告人の判示犯行は、善良な一般市民に対するいわれなき挑戦と目されたことも当然であり、かかる危険極まる犯行をあえてした責任は極めて重大である。

三  前記犯行の態様に関連し、弁護人は、被告人利益の情状の一として、本件各犯行は計画的なものではないと主張する。しかし、本件犯行は、判示の如く、拳銃を携行して犯行の対象を物色している点においてすでに計画的ともいえるのみならず、一般に、計画的犯行が強く非難されるのは、それが犯人の犯罪遂行意思の強固なことを徴表しているが故に、そして、それだけに結果発生の危険性が確実であるが故にであろう。とすれば、本件拳銃の如く、それじたい結果発生の危険性が確実な兇器による場合を、万般にわたる綿密周到な準備、予行等を要する他の殺害方法による場合と同一にこれを論じ、他の殺害方法による場合のような計画性がないとして、その責任を軽減するものではない。

四  本件犯行を決意するに至つた動機、その間の心情についてみても、函館においては正業についていながら、旭川市内に立ち戻つた後も友人の紹介で一応正業に恵まれながら、みずから、まじめに働く意欲を放擲し、全く利己的な物慾から、人命の尊厳に対し、いささかの考慮を払うことなく、淡々として判示犯行を反覆実行するに至つたものであり、そこにはなんら情状の酌むべきものはない。

五  なるほど被告人は幼くして父を戦争で失い、母が再婚してからの養父は、酒好きで仕事を余りせず、子供の教育にも熱心でなかつたし、実母も被告人が一六歳の夏に死亡してからは、じ来肉身の愛情から見放される等、その恵まれなかつた境遇は、それが本件犯行を決意するに至つた被告人の人格形成の一つの素因をなすものとして無視できないものがあり、そして、それらは被告人に帰責し得ない事情であるが故に当裁判所もそれじたいについては同情を惜しむものではないが、しかし、今日に至るまで、度々非行を重ねるつど、国家は被告人に対し相応の反省悔悟の機会を与え、矯正の措置をとつているのに、その間被告人においてなんら主体的な努力のみるべきものがなく、とくに成人に達したのちは、自らの運命は自ら開拓すべく、自らの責任において努力すべきことを思えば、被告人の右境遇も、決して、前記犯行の危険性および結果の重大性による責任を軽減する程の事情とは認めがたい。また、判示の如く、被告人が一七歳の時交通事故により右足首を切断したことから、被告人は、時に応じ、過度に自己卑下に陥り、劣等感を持つことがあつた事情も窺われるが、前掲諏訪鑑定書によれば、被告人は、本来、特有な意志薄弱性向(行為の固執性に不足し、その場限りで感情が浅薄、平板であり、体験から受ける印象を充分な深さで受け止める感動性に乏しい。)を有することとあわせ考えれば右身体障害の事実が特に被告人にとつて深刻な影響を及ぼすことは少なく、ただその性格に虚無的傾向を加えた程度に過ぎなかつたものと認められるのであるから、これまた被告人の本件犯行を決意するに至つた人格形成に格別の影響を及ぼさなかつたものというべきである。これを要するに、被告人が、これまで判示のように、再三、再四にわたり非行を重ねたすえ特別少年院に送致され、その後も反省悔悟することがないばかりか、とみに大胆かつ悪質となつて再犯を繰り返し、懲役刑に二度までも処せられたあげく、本件犯行に至つたことを考えるならば、本件を決意するに至つた素因は、生育環境に由来するというよりは、むしろ、主として被告人の生来的な習慣的犯罪性格に由来すると理解されざるを得ない。

六  さらに、弁護人の指摘するような判示第一の犯行発生後の捜査活動に拙劣な点があり、それが被告人の判示第二、第三の犯行を許したとして捜査当局に対する一般の批判があつたとしても、あたかもそれを冷笑するが如く重ねて右第二、第三の犯行を敢えてするに至つたその大胆不敵さこそ、被告人の性格の危険性を示すものとしてより強く非難されねばなるまい。したがつて、右の事情も、被告人の責任の重大さを左右するに足りるものとはいいえない。

七  被告人は、当公判廷において、いまさらの如く罪の深さを自覚し、悔悟の情を示していることは当裁判所もこれを認める。そして、その生立ちはそれじたいとして同情すべきものではあつた。しかし、前記の如くその態様の危険性と結果の重大性に照して考察すれば、その責任は極めて重く、審理の経過にあらわれた一切の資料を検討するも、これをくつがえすに足る被告人利益の情状はついに見出すことができない。

当裁判所は、選択すべき刑について、慎重の上にも慎重を期した。しかし、当裁判所が正義と考えるところのものは行なわれなければならない。してみれば、被告人がその罪を償う道はただ一つ、自らの生命をもつてこれをなさしめるのが相当と認めざるをえない。よつて刑法一〇条により判示第一の一、判示第二および判示第三の各罪のうち犯情において最も重い右第二の強盗殺人罪につきその所定刑中死刑を選択し、同法四六条一項本文に則り他の刑を科さないこととし、被告人を死刑に処する。

押収してある被用弾頭二個(証第二号)、空薬莢二個(証第三号)はいずれも判示第一の一の犯罪行為に供したもの、空薬莢二個(証第七、一二号)、被用弾頭一個(証第八号)はいずれも判示第二の犯罪行為に供したもの、拳銃弾の弾頭二個(証第一九号)、拳銃弾の薬莢二個(証第二〇号)および実包一発(証第二九号)はいずれも判示第三の犯罪行為に供したもの、ローヤル拳銃一丁(証第二五号)は判示第四の一のロの犯罪行為を組成したもの、実包七発(証第二六号)は判示第四の二のロの犯罪行為を組成したもの、小型拳銃一丁(証第二七号)、弾倉一個(証第二八号)はいずれも判示第一の一、第二、第三の犯罪行為に供したものであり、以上はいずれも所有者である中山健司が所有権放棄をしたので何人の所有にも属さないものであるから、犯罪行為に供したものは刑法一九条一項二号二項本文により、犯罪行為を組成したものは同法一九条一項一号二項本文により、いずれもこれを没収する。なお、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させない。

(弁護人の主張に対する判断)

第一  弁護人は、被告人が判示各犯行時において、その責任能力に影響を及ぼす精神上の欠陥があり、いわゆる責任無能力者又は限定責任能力者というべき精神状態にあつた旨主張するので、その点につき判断する。鑑定人北海道大学医学部附属病院精神神経科教授諏訪望作成の鑑定書によれば、被告人の現在の精神状態は、性格的には、前記の如く行動の意志的統制力や行為の固執性が不足しており、衝動の抑制能力に欠けている等の偏りが認められ、いわゆる意志薄弱者といわれる精神病質者(性格異常者)に特徴的な傾向を有することが認められるが、その程度は特に高度でなく、ロールシヤツハ性格検査によれば正常の範囲内に属すること、特に精神分裂病その他の精神病に罹患したことはないこと、知能程度は正常知能を示していること、各犯行当時の精神状態は現在の精神状態と全く同一であつて、意志薄弱の性格と習慣犯罪人特有の自己中心的な欲求充足傾向が認められるほか、特記すべき精神障害は存在しなかつたものとされ、これによれば被告人には判示各犯行時において特に責任能力に影響を及ぼすべき精神上の欠陥が認められないばかりか、被告人の前掲各供述調書の記載ならびに当公判廷における供述によれば、被告人は本件各犯行当時ならびにその前後の行動について詳細に供述しているのであり、これらの証拠を綜合して考察すれば、被告人の責任能力には欠陥がなかつたものと認められるので、弁護人の右主張は採用できない。

第二  弁護人は、刑法の死刑の規定は、憲法三六条、一三条、一一条、九七条ならびに九条に違反し無効である旨主張するが、刑法の死刑の規定が憲法の右各規定に違反するものでないことはすでに最高裁判所の判例の示すところであり(最高裁判所昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日判決、昭和二四年新(れ)第三三五号同二六年四月一八日判決、昭和三〇年(あ)第四六七号同年六月三〇日判決等各参照)、当裁判所の見解もこれと同旨であるので、弁護人の右主張は採用できない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 金隆史 林修 上村多平)

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